フォグコンピューティング、クラウド、サイバーセキュリティの力で「スマート」な製鉄所を構築する

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 2019.12.12  Japanブログ編集部

ここ数十年の間に、デジタル技術は私たちの世界を変えてきました。たとえば、モノのインターネット(IoT)とクラウドコンピューティングは、私たちの日常生活のあり方や、多くの企業のビジネスの進め方に進化をもたらしました。この進化は、産業分野、特にIndustrial Internet of Things(IIoT:産業用モノのインターネット)およびインダストリー4.0に浸透し始めました。すると、こんどはそれらが、スマートファクトリーなどの他の革新的な構想を推進しています。

スマートファクトリーは、IIoTおよびクラウドテクノロジーを使用することで、重大な進歩を可能にします。たとえば、IIoTのデータをクラウドで処理して予測分析を行うと、スマートファクトリーのさまざまなプロセスの最適化が可能になります。しかしながら、鉄鋼業界をはじめとする多くの産業組織には、リアルタイムの計算や通信の制約など、クラウドでは提供できない厳しい条件を必要とするシステムが存在しています。

このような制約に対処するために、フォグコンピューティングが生まれました。それは、業界に大きな利益をもたらす、コンピューティングにおける新しいパラダイムです。

このブログ記事では、IIoT、クラウドコンピューティング、フォグコンピューティングの相互関係について説明し、その利点と解決途中の問題を確認していくとともに、鉄鋼業界がこの新しいパラダイムを今後どのように活用してゆくことができるかを説明します。また、サイバーセキュリティの重要性を説き、このテクノロジーのエコシステム全体の基本的なコンポーネントの一部として、サーバーセキュリティをどのように捉えるべきかを考察します。

主となるコンセプトを理解する

それでは、スマートファクトリーとは何かという問いから始めましょう。

スマートファクトリーとは、コンピューティングおよび通信機能を備えた多数のデバイス(モノ)を含む、高度にデジタル化・ネットワーク化された生産環境です。これらのデバイスには、他のデバイスまたはバックエンドのレガシーITシステムとローカルでのみ通信するものや、サイバー物理システムのようにグローバルインターネットを介して他のシステムとも通信できるものがあります。スマートファクトリーはスマートマニュファクチャリングを可能にします。スマートマニュファクチャリングとは、スマートファクトリーのリソースを活用して、堅牢で信頼性の高い安全な製造オペレーションのメリットを提供し、製造の自動化や、無駄/ダウンタイムの削減を行うことによりプロセスを最適化する仕組みです。

次に検討すべきなのは、スマートファクトリーのビジョンをどのように実現できるかということです。スマートファクトリーに加え、スマートシティやスマートホームなどのビジョンを実現するために、数多くの技術パラダイムが研究開発されています。これらの技術パラダイムには、Internet of Everything(IoE、インターネットですべてをつなぐ)、Internet of Things(IoT、モノのインターネット)、Industrial Internet of Things(IIoT:産業用モノのインターネット)およびインダストリー4.0があります。

これらのパラダイムはすべて、深く関係し合っています。たとえば、IIoTはIoTのサブセットであり、IoTはIoEのサブセットです。これらのパラダイムの関係について、詳しく説明します。

IoEを提唱してきたCiscoは、IoEを次のように定義しています。『IoEとは、人、プロセス、データ、モノをひとつにして、関連性と有用性の高いネットワーク接続を提供することです。このネットワークで得られる情報を基に行動を起こすことで、新たな可能性やより豊かな体験が創出され、企業、個人、国家にかつてない経済的機会がもたらされます。』一方、IoTは、コンピューティングおよび通信機能が組み込まれたオブジェクトをベースとする、技術的なパラダイムです。

これらのオブジェクトはネットワーク化され、多数の異なる通信プロトコルを使用するモノのネットワーク(NoT)を形成します。これらのオブジェクトには、クラウド・コンピューティング・インフラストラクチャー内で実行される接続プロトコルを介してインターネット経由でアクセスできます。そして、それらのオブジェクトは、インターネットを介して監視カメラの映像を表示したり、休暇中にキッチンの照明をオフにしたりするなど、付加価値のある機能を提供できます。

IoEとIoTの主な違いは、人とプロセスの違いによるものです。IIoTはIoTに似ています。それらの大きな違いは、IIoTは業界のニーズとリソースに基づいてテクノロジーとモノを利用するのに対して、IoTは業界を超えたあらゆる性質のモノを含むことです。

最後にインダストリー4.0とは何か、またそれがどのように他と関係するのかを説明します。ドイツのアンゲラ・メルケル首相は、インダストリー4.0は『デジタル技術とインターネットを従来の産業と融合することにより、工業生産全体を包括的に変革するものである』と述べています。このことは、インダストリー4.0では、製造などの産業システムに関連付けられたすべてのエンティティがデジタル接続されることを意味します。

Forbes氏とSchaefer氏は、インダストリー4.0を、モノのインターネットとサービスのインターネット間の緊密な相互接続であるとして説明しています。これらの考え方はすべて、インダストリー4.0とInternet of Everythingがある意味同等であることを示しています。主な違いは、IoEが定義上すべてのものを網羅できるのに対して、インダストリー4.0は産業に焦点を当てていることです。

基盤と最新技術

前述のすべての構想の中核をなすテクノロジーの1つに、IoTがあります。IoTはパラダイムです。しかし、それは世界中に存在する非常に複雑なシステムという現実でもあります。IoTの研究開発は非常に速いペースで進んでおり、その採用も飛躍的に増加しています。

IoTにおいては、クラウドコンピューティングが非常に重要な役割を担います。クラウドがなければ、今日のIoTはあり得ません。

図1は、IoTアーキテクチャーの最新技術を簡略的な図で示しています。簡単に言うと、現在のIoTのアーキテクチャーは、インターネットのエッジ(端)に存在するモノで構成されています。一般的にエッジデバイスと呼ばれるこれらのモノがモノのネットワーク(NoT)を形成します。そしてそれらは、一般的には、さまざまな種類のIoT用の通信プロトコルを使用したり、インターネットを介して他のデバイスまたは人間と通信する能力を備えています。

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図1:IoTのアーキテクチャー-最新技術の現状

図が示すように、IoTデバイスはインターネットを介してクラウドと通信します。最先端のIoTテクノロジーは、データ処理、インテリジェンス、通信ファブリックにクラウドを使用しています。たとえば、スマートフォンを使用して自宅のインターネット接続されたライトを点灯させるときには、スマートフォンのアプリケーションがクラウドのエンドポイントと通信し、クラウドは事前に確立された常時オンの接続を使用して、デバイスにコマンドを伝えます。これは、IoT製品で非常によく使用されるコマンド&コントロールアーキテクチャーです。

フォグコンピューティングの今後の進歩

IoTの現在のアーキテクチャーは、多くのアプリケーション領域、特に消費者市場の分野でうまく機能します。しかし、特にスマートファクトリーやIIoTでの使用において、このアーキテクチャーにはさまざまな欠点があります。

最も重大な欠点の1つが時間です。スマートファクトリーや他のIIoTシステムには、遅延の影響を受けやすいコンポーネントが数多くあります。これは、スマートファクトリーの多くのコンポーネントには、リアルタイム性という制約があることを意味します(レガシーの非スマートファクトリー環境と同等のリアルタイム性)。

産業システムでは、運用技術(OT)と呼ばれる技術を使用します。OTは、「バルブ、ポンプなどの物理デバイスを直接監視または制御することにより、物理プロセス内の変化を検出したり、変化させたりするための専用のハードウェアおよびソフトウェア」を指します。OTは、プログラマブルロジックコントローラー(PLC)、監視制御・データ収集(SCADA)、分散制御システム(DCS)、コンピューター数値制御システム(CNC)、および一般的な産業用制御システム(ICS)などで構成されます。

これらのテクノロジーの多くには、使用するセンサーやアクチュエーターと同様に、リアルタイム性という制約があります。たとえば特定の環境にあるPLCでは、たとえ数ミリ秒でも信号の受信や処理が遅れると機能しなくなることがあります。データをクラウドに送信して処理する必要のあるスマートファクトリーにとって、この制約は問題となります。(リアルタイム性を求める制御システムには、クラウドとの間でデータを送受信する時間が長すぎる。)

このような問題を解決するのがフォグコンピューティングです。OpenFogコンソーシアムは、フォグコンピューティングを「クラウドからモノへのつながりにおいて、コンピューティング、ストレージ、コントロール、ネットワーキングのリソースとサービスを配信する、システムレベルの水平アーキテクチャー」であると定義しています。

図2は、フォグコンピューティングがIoT/IIoTアーキテクチャーにどのように適合するかを示しています。

2.Figure-2-IoT-IIoT-Architecture-with-Fog-Computing.

図2:フォグコンピューティングを使用したIoT/IIoTアーキテクチャー

要するに、フォグはクラウド型のリソースをエッジに近づけ、ネットワークの遅延をさらに抑えながら、モノやNoTが高度なコンピューティングリソースを利用できるようにする役割を担います。このアーキテクチャーでは、制御システムのオペレーションに対してもスマートファクトリーを実現することができます。

図2は、「フォグ・コンピューティング・レイヤー」には、フォグ・コンピューティング・リソースとして使用できる「エッジとクラウドの間のインターネット接続されているシステム」が含まれることを示しています。このようなリソースの例としては、エッジ付近のスイッチやルーター、オンプレミスのデータセンター、さらにはモノのネットワークとともにエッジに存在する専用のフォグコンピューティングノードが挙げられます。

利点と解決済みの問題

フォグコンピューティングは、IIoTとスマートファクトリーがもたらすメリットを実現する鍵となるものです。これらの利点としては、生産性、製品品質、安全性の向上があります。IIoTは、クリーンで環境に優しい製品製造のための技術的パスを提供します。その結果、製造業は、これまで目にしたことがないような顧客レベルのコラボレーションを実現し、マス・カスタマイゼーションや個別のカスタマイズを実装できるようになるでしょう。スマートファクトリーのあらゆる側面を最適化するチャンスは無限にあります。

今後の課題

IIoTとスマートファクトリーは多くの利点をもたらしますが、注目すべき課題もいくつかあります。サイバーセキュリティは、IIoTの可能性と利点を最大限に活用するうえで克服すべき最も重要な課題の1つとなるでしょう。より高度なIIoTシステムが、インターネットに接続されるようになると、システムが複雑化するとともに、無数の新しいサイバー攻撃手法が生まれます。

このような新しい世界では、IIoTテクノロジーを構築する人、使用する人、および保護する人など、IIoTに関わるすべての人に何らかの進化が必要となります。IIoTのサイバーセキュリティにおいては、これらすべての関係者が分野の垣根を越えてコラボレーションを行うことが必要になります。つまり、サイバーセキュリティは、もはやサイロ化されるものではありません。誰もが何らかの役割を果たす必要があります。

私たちは、中心的な課題である教育にも取り組んでいく必要があります。私たちの教育エコシステムは、サイバーセキュリティにおいては惨敗しています。科学、技術、工学、数学(STEM)分野の学生は全員、サイバーセキュリティの基礎を学び、それらを新しいテクノロジーに組み込めるようにする必要があるでしょう。

まとめ

この記事では、スマートファクトリーテクノロジーに必要な技術的基盤と、モノのインターネット、産業用モノのインターネット、インダストリー4.0などのパラダイムについて紹介しました。クラウドやフォグコンピューティングなどのテクノロジーについて説明し、これらの構想とテクノロジーがどのように関係し合っているかを示しました。現在発展しつつある新しいテクノロジーであるフォグは、IIoTおよびスマートファクトリーを完全に実現するための重要なコンポーネントとなるでしょう。

IIoTおよびスマートファクトリーの実現を妨げる大きな課題の1つは、サイバーセキュリティです。すべてがスマートでインターネット接続される未来の世界において、私たちの目標とビジョンを実現するには、コラボレーションを行い、Build Security Inの理念を取り入れ、STEMカリキュラムを発展させてサイバーセキュリティ教育を組み込むことが必要となるでしょう。

このトピックについて、もっと詳しく知りたいですか?2019年9月25日に開催されるFuture Steel Forumで、私がプレゼンテーションを行います。このプレゼンテーションのタイトルは、『フォグコンピューティング、クラウド、およびサイバーセキュリティを用いた鉄鋼業界におけるスマートファクトリーの基盤の構築』です。

Future Steel Forumのカンファレンスのページにアクセスして、プレゼンテーションの詳細をご覧ください。


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